施設で見てきた転倒トラブルと家族のすれ違い

特養で施設ケアマネをしていた頃、本当にさまざまなご家族と出会ってきました。

最近はSNSなどでも、施設と家族のトラブルや関係性について話題になることも増えていますが、実際の現場でも、決して珍しいことではありません。

どの施設でも起こりうる、とても身近な出来事だと感じています。

この記事では、実際に関わってきた中で感じた「3つの事例」をもとに、施設での生活や家族との関わりについて、ひとつの視点としてお伝えしていきます。

転倒は防げないこともあるという現実

施設で働いていると、転倒によるケガはどうしても避けられない場面があります。

そんな中で感じてきたのは、同じ出来事でも、ご家族の受け止め方は大きく違うということです。

ケース① 転倒で強い怒り

ある入居者さんは、認知症の症状が強く、じっとしていることが難しく、よく施設内を歩かれている方でした。

職員が付き添いながら対応していましたが、ある朝、転倒して骨折してしまいました。

そのとき、ご家族からは、

「なぜ転倒させたんですか」
「防ぐことはできなかったんですか」

といった強い言葉を受けることになりました。

ご本人の状態やリスクについては、これまでにもお伝えしていましたが、なかなか受け止めていただくことが難しい状況でした。

歩けるということは、転倒のリスクもあるということ。
そして、転倒を100%防ぐことはできないという現実があります。

この認識がずれてしまうと、トラブルにつながりやすくなってしまいます。

もちろん、リスクについては事前に何度も説明していました。

ですが、伝えることと、理解してもらうことは別の難しさがあります。

伝えているつもりでも、すべてがそのまま伝わるわけではない。

それもまた、現場で感じてきた現実のひとつです。

ケース② 転倒で受け止めてくださるご家族

別の方でも、同じように転倒して骨折されたケースがありました。

そのとき、ご家族は、

「ご迷惑をおかけしてすみません」
「いつもありがとうございます」

と声をかけてくださいました。

このご家族は、これまでご自宅で介護をされていたこともあり、見守りの難しさや、行動を止められない現実をよく理解されていました。

また、「本人の好きなように過ごさせてあげてください」とおっしゃっていたことも印象に残っています。

もちろん施設としても、

・見守り
・声かけ
・付き添い
・環境調整

できる限りの対策は行っています。

ですが、24時間すべてに付き添うことは難しいのが現実です。

その中で、理解し、信頼して任せてくださることは、とても大きな支えになると感じました。

ルールを守らないと、できていたことができなくなることもある

ある入居者さんは、お菓子やパンがとても好きな方でした。

ご家族も、「好きなものを食べさせてあげたい」という思いから、よく差し入れをされていました。

その結果、施設の食事に加えて、お菓子やパンも食べる生活になっていきました。

職員からも、

「食べる量を調整していきましょう」
「少し体を動かす機会を増やしていきましょう」

お伝えしていましたが、ご家族もご本人も、それぞれの思いがあり、なかなか受け入れていただくことが難しい状況でした。

また、ご本人も、動くことを避けることが増えていきました。

その結果、体重が増加し、膝の痛みが出て、次第に立ち上がることが難しくなっていきました。

やがて、トイレでの動作も難しくなり、おむつでの生活へと変わっていきました。

すると今度は、

「トイレに連れて行ってくれない」
「おむつにされてしまった」

といった言葉が、ご家族に伝わるようになりました。

そのときの希望だけを優先してしまうことで、できていたことができなくなってしまうこともあります。

「今の満足」と「これからの生活」

その両方を見ていくことの大切さを感じた出来事でした。

任せきれない家族

ある入居者さんのご家族で、ほぼ毎日のように面会に来られる方がおられました。

来られると、ずっとそばにいて、食事や過ごし方についても細かく気にかけておられました。

「これは食べさせてください」
「それはしないでください」

その一つひとつに、強い思いがあるのは伝わってきました。

ただその一方で、職員が関わろうとしてもタイミングが合わず、支援に入りづらくなる場面もありました。

正直に言うと、「もう少し任せてもらえたら…」と感じることもありました。

施設は、職員が関わることで成り立っている生活の場でもあります。

関わりが多くなりすぎることで、本来できるはずの支援がうまく進まなくなることもあります。

また、ご本人にとっても、家族との時間と、施設での生活のバランスが大切になります。

ずっとそばにいることが、必ずしもプラスになるとは限らない。

そんな難しさを感じた場面でもありました。

見えないところで支えている人たちがいる

施設での生活は、目に見える関わりだけで成り立っているわけではありません。

日々、

転倒を防ぐための工夫
関わり方の見直し

どうすればその人らしく過ごせるかを考えながら、

・介護職員
・看護師
・ケアマネジャー
・相談員

さまざまな職種が集まり、話し合いを重ねています。

その人に合った関わり方を探す“オーダーメイドのケア”です。

また、虐待や身体拘束についても、研修を通して学び続けています。

それでも、人員が限られている中で、すべてに対応できるとは限らないのが現実です。

その中で、できることを考えながら、なんとか支えている。

そんな現場があることも、知っていただけたらと思います。

だからこそ、ご家族にも少しだけ視点を持っていただけると嬉しいです。

正解はひとつじゃない

施設での生活や関わり方には、「これが正解」というものはありません。

同じ出来事でも、怒りになることもあれば、受け止めることもある。

関わりすぎてしまうこともあれば、距離が足りないこともある。

どちらが正しい、間違っている、という単純な話ではありません。

ただひとつ言えるのは、関わり方ひとつで、その人の生活は大きく変わるということです。

本人の思いを大切にすること。
これからの生活や安全を考えること。

そのバランスがとても大切です。

施設は、すべてを任せる場所でも、すべてを抱える場所でもありません。

一緒に支えていく場所です。

少し任せてみること。
少し視点を変えてみること。

それが、これからの生活をよりよくしていくきっかけになることもあります。

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