「一度、病院で診てもらわない?」
家族が心配して声をかけても、
「絶対に行かへん!」
認知症が気になっていても、本人が受診を嫌がることがあります。
「どうやったら病院へ行ってくれるんやろ……」
と悩んでいるご家族もいるのではないでしょうか。
実は、受診につなげる方法にひとつの正解はありません。
今回は、私が介護の仕事で実際に経験した4つのケースをご紹介します。
主治医のひと言で受診につながったAさん
物忘れが目立つようになってきたAさん。
身の回りのことは自分でできていて、日常生活も一見すると大きな問題はありませんでした。
でも家では、同じことを何度も家族に聞いたり、
「お金がなくなった」
と言って、お嫁さんを疑ったりすることが増えていました。
何度説明しても、また同じことを聞かれる。
なくしたお金のことで疑われる。
そんな毎日が続き、ご家族もだんだん疲れておられました。
そこで認知症外来を受診してもらおうとしたのですが、Aさんは、
「絶対に病院なんか行かへん!!」
と断固拒否。
家族が勧めても、まったく聞く耳を持ってくれません。
困ったご家族が主治医に相談したところ、
「私から紹介しましょう」
と言ってくださり、先生からAさん本人に認知症外来の受診を勧めてもらうことになりました。
Aさんは、この先生をとても信頼していました。
家族には「行かへん!」と言っていたのに、先生から説明されると、
「わかりました」
と、すんなり。
そして受診当日。
またAさんから、
「病院なんか行かへん」
という言葉が出ました。
そこでご家族が、
「先生に言われたでしょ。紹介状も書いてもらってるよ」
と紹介状の入った封筒を見せると、
「ほな、行かなあかんな」
と納得。
無事、受診につなげることができました。
家族の言葉だからこそ、届きにくいこともある
家族の言うことって、案外すんなり聞けないものです。
特に親からすれば、子ども世代に、
「病院へ行ったほうがいいよ」
と言われても、
「なんであんたにそんなこと言われなあかんの」
となることもあります。
でも、普段からお世話になっていて、本人が信頼している医師から言われると、
「先生が言うなら行かなあかんな」
となることがあります。
Aさんの場合は、まさにそれでした。
家族だけで何度説得しても難しかった受診が、Aさんが信頼していた主治医のひと言で動いたケースでした。
大好きな息子さんのひと言で受診につながったBさん
娘さん夫婦と一緒に暮らしていたBさん。
物忘れが目立つようになり、それとともに怒りっぽくなることも増えていました。
ちょっとしたことで腹を立ててしまい、一緒に暮らしている娘さんと言い合いになることも。
そこで娘さんから、認知症外来を受診してみないかと話してもらいました。
ところが……
もちろん、聞いてくれません💦
一緒に暮らしているからこそ、お互いに感情的になってしまうこともあります。
「ほかに、ご家族はいませんか?」
と確認してみると、隣の県に息子さんが暮らしているとのこと。
そして娘さんから、
「母は息子をとてもかわいがっていて、息子の言うことなら何でも聞くんです」
という話を聞きました。
それなら、息子さんから話してもらってみよう。
そう考え、息子さんに来ていただくことになりました。
久しぶりに会いに来てくれた息子さんに、Bさんは、
「私のために、わざわざ来てくれたん?」
とうれしそうな様子。
そして息子さんから受診を勧めてもらうと、
「あんたが言うんやったら……」
と、すんなり受け入れてくれました。
その後、認知症外来を予約。
受診当日も息子さんに付き添っていただき、無事に受診につなげることができました。
同じ「家族」でも、誰の言葉なら届くのか
Bさんの場合、一緒に暮らしている娘さんが何度勧めても、受診にはつながりませんでした。
でも、大好きな息子さんから言われると、
「あんたが言うんやったら」
と受け入れることができました。
これは「娘さんの伝え方が悪かった」という話ではありません。
一緒に暮らしている家族だからこそ、毎日の積み重ねもあります。
心配して言ったことでも、言い合いになってしまうことだってあります。
そんなとき私は、
「この人は、誰の言葉なら聞いてくれるだろう?」
と考えることがあります。
同じ家族でも、関係性はそれぞれ。
Bさんの場合は、かわいがっていた息子さんの存在が、受診につながるきっかけになりました。
時間をかけて信頼関係を築き、受診につながったCさん
私が地域包括支援センターでケアマネをしていた頃のお話です。
ある日、Cさんのご家族から相談の電話がありました。
ご自宅へ伺ってお話を聞いてみると、Cさんは少し前に運転免許証の更新へ行ったものの、日付を答えることができず、更新できなかったとのことでした。
それをきっかけに意欲が低下。
家に閉じこもりがちになり、大好きだった買い物にも行かなくなってしまいました。
ご家族が、
「一度、病院へ行ってみよう」
と勧めても、
「いかへん」
と言って動こうとしません。
Cさんには糖尿病の持病もあり、ご家族は、
「このまま認知症も病気も悪くなって、寝たきりになってしまうんじゃないか……」
と心配されていました。
まずは「病院へ行ってもらうこと」から離れてみた
このとき、すぐに認知症外来へ連れて行くことだけを目標にはしませんでした。
まずは糖尿病の状態や薬の管理を確認したり、少しでも体を動かす機会をつくったりするため、訪問看護を利用することになりました。
訪問看護師さんには、自宅でCさんとお話をしながら体調やお薬の使い方を確認したり、一緒に体操をしたりしてもらいました。
そしてケアマネだった私も、ときどきCさんのもとへ。
そこで何をしていたかというと……
長いこと、おしゃべりしていました🤣
いきなり、
「認知症外来へ行きましょう!」
と説得するのではなく、まずはCさんと話す。
訪問看護師さんも私も、そんな関わりを続けていきました。
そうして少しずつ時間を重ねるうちに、Cさんとの間に信頼関係ができてきました。
「そろそろ、お話してみてもいいかもしれない」
そう思えるタイミングで、改めて認知症外来の受診を提案してみました。
するとCさんから、
「行ってみようかな……」
という言葉が。
ようやく、受診につなげることができました。
その後は認知症外来でCさんの状態に合わせた治療が始まり、デイサービスの利用にもつながりました。
急がず「待つ」ことが必要なときもある
Cさんが受診するまでには、時間がかかりました。
でも、この経験から私が感じたのは、すぐに受診させようとすることだけが方法ではないということです。
病院へ行くことを嫌がっている人に、何度も受診を勧めれば、かえって警戒されてしまうこともあります。
そんなときは、いったん受診の話から離れて、その人が今困っていることや、必要としている支援から関わっていく。
一緒に話したり、体調をみてもらったり。
そうやって、「この人たちなら話を聞いてもいいかな」と思ってもらえる関係をつくっていく。
そして、本人が受診の話を受け入れられそうになるまで待つ。
時間はかかります。
それでもCさんの場合は、信頼関係をつくる時間そのものが、受診につながるために必要な時間だったのだと思います。
家族みんなで認知症相談会へ行ったDさん
Dさんにも、ご家族は一度受診してほしいと考えていました。
でも、
「病院へ行ってみない?」
と家族が勧めても、なかなか受け入れてもらえません。
そんなとき、ご家族が知ったのが、自治体が開いていた認知症相談会でした。
そこで、
「病院へ行こう」
ではなく、
「みんなで相談会に行ってみよう」
と声をかけることにしたそうです。
Dさんには、
「こういうことは、早めに相談しておくことが大事なんよ」
「お母さんだけじゃないよ。私たちも一緒に行くよ」
と伝え、ご家族みんなで相談会へ。
Dさんも、それならと一緒に参加することができました。
「自分は大丈夫」と言っていても、不安がないとは限らない
認知症では、自分に起きている変化を十分に認識できないことがあります。
これを難しい言葉では「病識が乏しい」などと言います。
でも、
「本人は何も分かっていない」
「本人は何も気にしていない」
とは限りません。
「最近、なんかおかしいな」
「前はできていたのに、うまくできないな」
そんな違和感を感じながら、それが何なのか分からなかったり、誰にも言えずに一人で抱えていたりすることもあります。
そんなときに、
「あなたがおかしいから、調べてもらおう」
と言われたら、そりゃあ嫌になることもありますよね。
Dさんのご家族は、
「お母さんだけじゃないよ」
「私たちも一緒に行くよ」
と、Dさんひとりを「調べてもらう人」にしませんでした。
病院へ行くことを何度も説得するのではなく、まずは家族と一緒に相談できる場所へ行ってみる。
Dさんの場合は、そんな方法が最初の一歩になりました。
暴力など身の危険があるときは、無理に待たないで
ここまで、本人が受診を嫌がるときに、私が実際に経験したケースを紹介してきました。
でも、ひとつだけ別に考えてほしいことがあります。
それは、本人や家族の身に危険が及んでいるときです。
私は以前、ご家族に暴力を振るっていた方に関わったことがあります。
その方は警察が介入する事態となり、その後、入院につながっていました。
私が関わったのはその後でしたが、そこまでの状態になる前にも、ご家族にはいろいろなことがあったのではないかと思います。
毎日一緒にいると、
「病気だから仕方ない」
「私が我慢すればいい」
「警察なんて呼んだら大ごとになる」
と、家族が耐えてしまうこともあるかもしれません。
でも、暴力があったり、刃物を持ち出したり、自分や周囲の人を傷つける危険があったりする場合は、受診してくれるタイミングをゆっくり待つ状況ではありません。
まずはその場から離れるなど、自分自身の安全を確保してください。
差し迫った危険がある場合は110番へ。
警察庁も、事件や事故など緊急の対応が必要な場合には110番を利用するよう案内しています。
また、急な体調変化やけがなどで救急対応が必要な場合は119番へ。
厚生労働省も、緊急性が高いと判断した場合は救急車を要請するよう案内しています。
警察や救急に連絡したからといって、必ず入院になるわけではありません。
入院が必要かどうかや、その後の対応は本人の状態や状況によって変わります。
家族だからといって、危険な状況まで我慢する必要はありません。
まとめ|認知症の受診拒否に「これが正解」はありません
今回は、認知症の受診を嫌がる方に、私が実際に関わったケースを紹介しました。
主治医のひと言で受診できた人。
信頼する家族の言葉なら聞けた人。
支援者と時間をかけて関係を築いた人。
家族みんなで相談会へ行った人。
受診につながった方法は、それぞれ違います。
「この方法なら大丈夫」という正解はありません。
誰の言葉なら届くのか。
どんな方法なら受け入れられそうか。
その人に合った入口を探してみることが大切なのだと思います。
家族だけで難しいときは、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの力も借りてくださいね。
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