「認知症ですね」
病院でそう診断されたら、
「これから、どうしたらいいんやろ……」
と戸惑うご家族も多いのではないでしょうか。
病院にはこれからも通うの?
介護保険は申請したほうがいい?
デイサービスにも行ったほうがいい?
一人暮らしはもう難しい?
家族は何をすればいい?
考えることが、一気に増えたように感じるかもしれません。
でも、認知症と診断されたあとの暮らしに、「みんなこうすればいい」というひとつの正解はありません。
病院に通いながら、介護サービスを利用する人もいます。
まだ身の回りのことができていて、見守りを受けながらこれまでの生活を続ける人もいます。
家族と一緒に暮らす人もいれば、住む場所を変える人もいます。
大切なのは、診断名だけを見るのではなく、
「今、どんな生活をしているのか」
「何ができて、何に困っているのか」
「これから、どんなふうに暮らしたいのか」
を、その人や家族と一緒に考えていくことだと思います。
今回は、私が介護の仕事で実際に関わった4人の「認知症と診断された、その後」をご紹介します。
一人暮らしを続けたいAさん
一人暮らしをしていたAさんは、物忘れの症状が気になるようになり、娘さんと一緒に病院を受診しました。
そこで、アルツハイマー型認知症と診断されました。
Aさんは、ご自身の病気について理解されていました。
私とお話ししているときにも、
「私、認知症なの」
「今度、何日だったかな? 認知症の病院に行くの。娘と一緒に」
と話されていました。
そんなAさんには、ひとつの願いがありました。
「できるだけ、自分で生活を続けたい」
そしてもうひとつ、
「娘には迷惑をかけたくない」
という思いも持っておられました。
今の暮らしを続けるために、認知症デイへ
Aさんは娘さんと一緒に、これからの生活について相談されました。
そこで勧められたのが、認知症の方を対象としたデイサービスでした。
一人暮らしをしていると、どうしても家の中で一人で過ごす時間が長くなりがちです。
特に、物忘れなどが増えてくると、
「失敗したらどうしよう」
「人に迷惑をかけたらどうしよう」
と、外へ出る機会が少なくなってしまうこともあります。
けれど、家の外へ出て誰かと話したり、一緒に何かをしたり、自分のできることで役割を持ったりすることも、その人らしい生活を続けていくうえで大切なことです。
Aさんは、病院への通院を続けながら、認知症デイを利用することになりました。
デイではほかの利用者さんや職員と過ごし、人と関わる機会を持ちながら、それ以外の日はこれまで通り自宅で生活する。
「認知症と診断されたから、一人暮らしはもう無理」
ではなく、
「一人暮らしを続けたいから、そのために必要な支援を使う」
Aさんにとっての認知症デイは、そんな選択肢のひとつだったのだと思います。
介護サービスを使わず、一人暮らしを続けたBさん
地域包括支援センターに、離れて暮らす娘さんから相談がありました。
Bさんは認知症と診断されていましたが、一人暮らしを続けていました。
娘さんは、
「デイサービスに通ってほしいんですけど、本人が嫌がって……」
と心配されていました。
一方、Bさん本人に話を聞いてみると、
「大丈夫です。困っていることはないです」
そして、
「娘には迷惑をかけて、申し訳ないです」
と話されます。
離れて暮らす娘さんからすれば、やっぱり心配です。
そこで娘さんの強い希望もあり、デイサービスを利用してみることになりました。
契約も済ませ、いよいよ利用開始。
ところが当日の朝になると、
「ちょっと体調が……。今日は休みます」
そして次の利用日も、
「体調が……」
結局、一度もデイサービスへ行くことなく、利用を中止することになりました。
デイサービスには行かない。でも病院には……
そんなBさんでしたが、かかりつけの病院には自分で通っていました。
しかも、
「体調が……」
と言って、一日に何度も病院へ行くことも💦
でも、自分の足で何度も病院まで行けるくらい元気です。
身の回りのことも、自分でできていました。
「認知症と診断されたんだから、何か介護サービスを使わないと」
と思ってしまいそうになりますが、本人が必要としていなかったり、利用したくなかったりすることもあります。
Bさんの場合は、無理にデイサービスの利用を続けるのではなく、そのまま一人暮らしを続けることになりました。
とはいえ、「じゃあ何もしない」というわけではありません。
地域包括支援センターがときどき自宅を訪問し、Bさんの暮らしを見守っていくことになりました。
「今は使わない」という選択肢もある
認知症と診断されたからといって、すぐに全員が介護サービスを必要とするわけではありません。
本人ができていることや、困っていることは人によって違います。
Bさんには、まだ自分でできることがたくさんありました。
だからこのときは、
「今の暮らしを続けながら、必要になったときにまた考える」
という形になりました。
介護サービスを使うことだけが支援ではありません。
ときどき様子を見ながら、その人が今できている暮らしを見守ることも、ひとつの支援なのだと思います。
家族と暮らしながら支援を取り入れたCさん
Cさんは、ご家族と一緒に暮らしていました。
物忘れが増え、さらに「物を盗られた」と訴えることもあり、ご家族は対応に悩んでいました。
病院を勧めても、なかなか受診にはつながりません。
それでもご家族が何とか受診につなげ、Cさんはアルツハイマー型認知症と診断されました。
受診した病院から勧められたのが、病院に併設されている精神科のデイケアでした。
まずはそこへ通いながら、病院での治療も続けることになりました。
その後、これから長く支援を受けながら生活していくことを考え、介護保険を申請。
精神科デイケアから介護保険のデイサービスへ切り替え、通院を続けながら、ご家族との自宅生活を続けることになりました。
家族と「離れる時間」があってもいい
Cさんのケースで特に大きかったのが、ご家族の介護負担でした。
物忘れがあれば、同じことを何度も聞かれることがあります。
「物を盗られた」と言われれば、
「盗ってないよ」
「ここにあるやん」
と説明したくなることもあるでしょう。
それが毎日の生活の中で何度も繰り返されれば、家族だって疲れます。
大切な家族だからこそ、いつでも優しくできるわけではありません。
一緒にいる時間が長ければ、お互いにイライラしたり、言わなくてもいいことまで言ってしまったりすることもあります。
だから私は、本人と家族が離れて過ごす時間も必要だと思っています。
デイサービスへ行けば、Cさんには家族以外の人と話したり、一緒に活動したりする時間ができます。
その間、ご家族にも介護から少し離れられる時間ができます。
そして帰ってきたら、また一緒に暮らす。
ずっと一緒にいることだけが、家族を支える方法ではありません。
Cさんは、通院や服薬を続けながらデイサービスを利用することで、次第に落ち着いて過ごせるようになりました。
そしてそれは、Cさん自身だけでなく、一緒に暮らすご家族の負担を軽くすることにもつながりました。
認知症と診断されたあとの生活を考えるとき、本人への支援だけではなく、
「一緒に暮らす家族が、この生活を続けていけるか」
という視点も、とても大切なのだと思います。
一人暮らしを続けることが難しくなったDさん
Dさんは、一人暮らしをしていました。
以前から認知症と思われる症状があり、少しずつ身の回りのことも難しくなっていました。
ご家族も心配して受診を勧めていましたが、Dさんはかたくなに拒否。
それでも一人にしておくことは心配で、ご家族は毎日のようにDさんの様子を見に行っていました。
そんなある日のことです。
Dさんが自宅の玄関先で転倒し、起き上がれなくなっているところを近所の方が見つけてくれました。
病院を受診し、そこで認知症と診断されました。
そして、これからの生活について介護サービスの利用を勧められることになりました。
「一人暮らしを続けること」が難しくなっていた
ご家族も、これからどうするかを考えました。
とはいえ、家族が一緒に暮らせばすべて解決するわけではありません。
それぞれに仕事や家庭、生活があります。
Dさんのご家族も、同居することは難しい状況でした。
一方で、これまで通りDさんが一人で暮らし続けることにも限界がきていました。
自宅では、お風呂にもなかなか入れていませんでした。
散髪にも行けず、身だしなみを整えることも難しくなっていました。
そして何より、玄関先で転倒したときのように、何かあっても自分で助けを求められない可能性があります。
「できるだけ自宅で暮らしてほしい」
そんな思いがあったとしても、本人や家族の頑張りだけでは難しくなることがあります。
Dさんはまず、ロングショートステイを利用することになりました。
そしてその後、グループホームへ入居することになりました。
住む場所が変わって、できるようになったこともある
グループホームに入ったDさんは、職員の支援を受けながらお風呂に入り、散髪にも行きました。
身だしなみも整い、ずいぶんきれいになりました。
そして、ある年のハロウィン。
グループホームで開かれたイベントでは、Dさんも仮装して楽しんでおられました🎃
自宅を離れて施設へ入ることを、
「今までの生活ができなくなった」
と捉えてしまうこともあるかもしれません。
もちろん、住み慣れた家を離れることは、本人にとっても家族にとっても大きな変化です。
でもDさんを見ていると、住む場所を変えたことで、
一人では難しくなっていたことを誰かに手伝ってもらいながら、またできるようになることもある。
私はそう感じました。
認知症と診断されたあとも、できるだけ自宅で暮らし続けることが、その人に合っている場合もあります。
一方で、今の暮らしを続けることが、本人にも家族にも難しくなることもあります。
そんなときは、
「自宅で暮らし続けること」だけにこだわらず、その人がこれから安心して生活できる場所を考える。
住む場所を変えることも、その人の暮らしを支えるひとつの選択肢なのだと思います。
まとめ|認知症と診断されても、その後の暮らしは人それぞれ
今回は、認知症と診断されたあと、それぞれ違う暮らしを選んだ4人のケースをご紹介しました。
認知症デイを利用しながら、一人暮らしを続けた人。
介護サービスは利用せず、地域包括支援センターに見守ってもらいながら暮らした人。
デイサービスを利用し、家族と適度に離れる時間を持ちながら、自宅での生活を続けた人。
そして、一人暮らしが難しくなり、グループホームという新しい生活の場を選んだ人。
同じ「認知症」と診断されても、その後の暮らしはみんな違います。
認知症と診断されたら、
「すぐに介護サービスを使わないと」
「一人暮らしはもう無理なのかな」
「家族が全部やらないと」
と考えてしまうかもしれません。
でも、大切なのは、「認知症だからどうするか」だけで考えないことだと思います。
今、何ができているのか。
何に困っているのか。
本人はどう暮らしたいのか。
そして、家族は無理なく支えていけるのか。
病院に通い、医療の力を借りることも大切です。
そして必要になったときには、介護サービスや地域の支援にも頼りながら、その人と家族に合った暮らし方を探していく。
認知症と診断されても、その人の生活がそこで終わるわけではありません。
診断されたその先にも、その人の暮らしは続いていきます。
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