歩行器ひとつで、世界が広がった話
Aさんは一人暮らし。
脊柱管狭窄症を患い、手術後も強い痛み止めを1日3回服用していました。
「自分で買い物に行きたい」
「飼っている犬の散歩に行きたい」
それが、Aさんの願いでした。
でも、痛みと不安で外出は減り、
家にいる時間が増えていました。
そこで提案したのが、歩行器のレンタルです。
福祉用具専門相談員さんに来てもらい、
狭い店内でも方向転換がしやすく、
買い物袋も載せられるタイプを一緒に選びました。
まずは1週間のお試し。
Aさんは、少し緊張しながら歩行器を押して外へ出ました。
数日後。
「買い物、行けたよ」
そう言った表情は、
それまでとは少し違っていました。
レンタルが正式に始まり、
Aさんは歩行器を押して買い物へ行き、
毎日の日課として犬の散歩も再開しました。
その犬も高齢で、
ゆっくり歩くAさんをちゃんと待ってくれるそうです。
何度目かの訪問のとき。
冷蔵庫に貼られた紙が目に入りました。
「100歳まで犬の散歩をする!」
福祉用具は、
ただ“便利になるもの”ではありません。
その人らしい暮らしを取り戻すための道具です。
外出できず、ふさぎ込んでいた方が
外へ出られるようになる。
できることが増え、
気持ちが前向きになり、
生きる目標まで持てるようになる。
歩行器ひとつで、
人生の向きが少し変わることもある。
あのとき私は、
福祉用具の本当の意味を学びました。

