「水分をとってね。」
「のどは渇いてない。」
「今はいらない。」
高齢のご家族と暮らしていると、こんなやり取りをしたことはありませんか?
家でも介護施設でも、「水分をあまりとってくれない」という悩みはとても多く聞かれます。
私もケアマネジャーとして多くの利用者さんやご家族と関わる中で、「どうしたら水分をとってもらえるんですか?」という相談を何度も受けてきました。
もちろん、「これをすれば必ず飲んでくれる」という方法はありません。
ですが、介護現場では少しの工夫で水分補給の習慣がつき、「ほとんど水分がとれなかった方が、自分から飲めるようになった」ケースもありました。
この記事では、私がケアマネジャーとして実際に取り組み、効果があった水分補給の工夫をご紹介します。
「飲んで!」と言わなくても水分をとってもらえた工夫
工夫① 「一口だけ」を習慣にする
私が担当していた在宅の利用者、Aさんのお話です。
Aさんは、うつ病で入院治療を終え、自宅へ退院されたばかりでした。
主治医からは、お薬だけでなく「食事や水分をしっかりとることも治療の一つです」と指導されていました。
ところが、ご家族からこんな相談を受けました。
「先生に言われているのに、全然水分を飲んでくれないんです……。」
Aさんにお聞きすると、
「ほしいと思わへんのや。」
とのこと。
無理に「もっと飲んで!」と声をかけても、お互いにしんどくなるだけです。
そこで私が提案したのが、
・1時間ごとにアラームを鳴らす
・アラームが鳴ったら「一口だけ」お茶を飲む
という方法でした。
一口なら約50ml。
これを1日12回続けると、約600mlになります。
さらに、
・食事3回とおやつの時間に100mlずつ飲む
ことで、約1,000mlの水分を無理なくとることができました。
最初はご家族の声かけが必要でしたが、しばらくすると、
「音が鳴ったから飲むわ。」
と、Aさんから自然に飲めるようになりました。
その後は少しずつ体調が整い、お化粧をするようになり、電車に乗って友人と出かけられるまで元気を取り戻されました。
もちろん、元気になった理由は水分補給だけではありません。
治療やご家族の支えなど、さまざまな要因があったと思います。
それでも私は、水分補給を無理なく習慣にできたことが、回復を支える大切な一歩になったと感じています。
工夫② 好きな飲み物なら飲めることもある
グループホームで担当していた認知症のBさんのお話です。
Bさんは、お茶をあまり飲んでくれませんでした。
コップ1杯のお茶を飲むのに、
「一口どうぞ。」
と何度も声をかけても、なかなか進みません。
このままでは、一日に必要な水分量をとることが難しい状態でした。
とはいえ、認知症はあっても意思はしっかりされていたので、
「いらんって言ったら、いらん!」
とはっきり断られてしまいます。
そこで、お茶ではなく別の飲み物を試してみました。
・りんごジュース
・オレンジジュース
・炭酸飲料
・コーヒー など
すると、味がしっかりした飲み物は、自分からしっかり飲んでくださることがありました。
「今日は何を飲もうかな」と選ぶ楽しみにもつながり、水分補給の時間そのものが少し楽しみになっていたように感じます。
カフェインやお酒には少し注意
もちろん、好きな飲み物なら何でもよいというわけではありません。
コーヒーや緑茶などカフェインを多く含む飲み物は、飲み過ぎに注意しましょう。
また、お酒は水分補給の代わりにはなりません。
アルコールには利尿作用があるため、かえって体の水分が失われやすくなることがあります。
「水やお茶しかダメ」と決めつけるのではなく、その方が無理なく続けられる飲み物を取り入れることも大切だと感じています。
工夫③ 食事から水分をとる
介護施設では、水分摂取量を毎日記録しながら管理しています。
それほど、水分補給は介護の中でも大切にされているケアの一つです。
それでも、高齢者は全体的に水分をとる量が少なく、職員が何度も声をかけても、なかなか飲んでもらえないことがよくあります。
水分補給は、介護施設でも苦労することの一つです。
そんな中で役立つのが、食事から水分をとるという方法です。
施設の食事は栄養バランスを考えて作られていますが、ほとんどの食事に
・味噌汁
・おすまし
・スープ
などの汁物がついています。
汁物は食事と一緒に自然に水分をとることができるため、水分補給の助けになります。
また、高齢者の中には冷たい飲み物が苦手な方も少なくありません。
その一方で、味噌汁やおすましは昔から親しまれてきた食べ物です。
「お茶はあまり飲まないけれど、味噌汁なら飲んでくれる。」
そんな場面を、私は何度も見てきました。
味噌汁には水分だけでなく、塩分や発酵食品としての栄養も含まれています。
もちろん、塩分のとり過ぎには注意が必要ですが、水分をなかなかとれない方には、汁物を上手に取り入れることも一つの方法だと感じています。
工夫④ ゼリーやシャーベットを活用する
寝たきりで在宅生活を送っていたCさんのお話です。
Cさんは、水分を飲むたびにむせやすく、
「いらん!」
と言って、水分補給を嫌がることがよくありました。
そこで工夫していたのが、スポーツ飲料をゼラチンで固めてゼリーにする方法です。
タッパーに作り置きしておき、少しずつ食べてもらうようにしていました。
飲み物は嫌がっても、ゼリーなら口当たりがよく、むせることも少なかったため、喜んで食べてくださっていました。
ご家族だけでなく、ヘルパーが訪問したときにも、必ずゼリーを食べてもらうようにしていたことを覚えています。
飲み物を飲むのがしんどい方には、
・ゼリー飲料
・とろみ飲料
・シャーベットタイプの経口補水飲料やお茶など
などを活用するのも一つの方法です。
私が現場で働いていた頃は手作りするご家庭もありましたが、今は手軽に利用できるゼリー飲料やとろみ飲料、シャーベットタイプの商品も増えています。
介護をしながら毎日手作りするのは大変なので、無理せず市販品を活用するのもおすすめです。
むせが気になる方は専門職にも相談を
ただし、飲み込みの力が低下している方は、ゼリーなら誰でも安全というわけではありません。
むせ込みが続く場合や、食べるたびに苦しそうな様子がある場合は、主治医や訪問看護師、言語聴覚士(ST)などに相談し、その方に合った形状を選ぶようにしましょう。
工夫⑤ コップを変えてみる
グループホームで働いていた頃、コップを変えただけで水分補給が進んだことが何度もありました。
例えば…
・マグカップからガラスのコップに変えたら、よく飲んでくださるようになった方
・陶器のコップから軽いプラスチック製に変えたら、自分で持って飲めるようになった方
・ご家族からプレゼントされたお気に入りのコップだと、嬉しそうに飲んでくださる方
・ストロー付きのコップにしたら、飲みやすくなって水分量が増えた方
理由は人それぞれですが、
「中身が見える方が安心できた」
「コップが軽くて持ちやすかった」
「お気に入りのコップだから使いたかった」
「ストローの方が口に運びやすかった」
など、ちょっとした違いが影響していたのかもしれません。
私自身、「コップを変えただけでこんなに違うんだ」と驚いたことが何度もあります。
水分補給が進まないときは、「何を飲むか」だけでなく、「どんなコップで飲むか」を変えてみるのも一つの方法です。
私が現場で働いていた頃は、市販のコップを工夫して使うことも多かったですが、最近は高齢者が飲みやすいように作られた介護用コップも増えています。
「飲まないから困っている」という方は、道具を変えてみるだけで改善することもあります。
工夫⑥ 「飲んで」ではなく、一緒に飲む
介護施設で働いていた頃、認知症のDさんは水分補給がなかなか進まない方でした。
その日は特にほとんど飲めておらず、何度声をかけても、
「いらん。」
と言われてしまいます。
そこで私は、自分の分とDさんの分のお茶を用意して、
「Dさん、お茶にしましょうか。」
と声をかけました。
そして隣に座り、
「乾杯!」
と言ってコップを差し出すと、Dさんも笑顔でコップを持ち、
「乾杯。」
と返してくださいました。
そのまま二人でお茶を飲むと、不思議なくらい自然に飲み進めてくださいました。
もちろん、この方法がすべての方に当てはまるわけではありません。
介護には、「これをすれば必ずうまくいく」という方法はないからです。
でも、人は誰でも、
「これして。」
「あれして。」
と言われ続けるより、
「一緒にやりましょう。」
と言われた方が、受け入れやすいことがあります。
高齢者も同じです。
介護は、一方的に「してあげる」だけではなく、できるだけ同じ目線に立つことも大切なのかもしれません。
水分補給が難しいときは、
「飲んで。」
ではなく、
「一緒にお茶にしませんか?」
そんな声かけを試してみるのも、一つの方法だと思います。
まとめ|その人に合った方法を見つけることが大切
高齢者が水分を飲んでくれないと、
「何回言ったら飲んでくれるの……。」
と、ご家族もついイライラしたり、落ち込んだりしてしまいます。
私も介護の現場で、たくさんのご家族から同じ悩みを聞いてきました。
また、自分自身も悩んできました。
今回ご紹介した方法も、すべての方に当てはまるわけではありません。
でも、
・一口だけ飲んでみる
・好きな飲み物を選ぶ
・食事から水分をとる
・ゼリーやシャーベットを活用する
・コップを変えてみる
・一緒に飲んでみる
そんな小さな工夫で、水分補給がうまくいくこともあります。
介護は、一つの方法で解決できることばかりではありません。
だからこそ、「この人にはどんな方法が合うかな?」と少しずつ試してみることが大切です。
毎日24時間365日介護をしているご家族にとっては、そんな余裕がない日もあると思います。
だからこそ、一人で抱え込まず、ケアマネジャーやヘルパー、デイサービスなど周りの力も借りながら、無理のない方法を見つけていきましょう。
水分補給は、毎日の小さな積み重ねです。
今日ご紹介した方法の中から、「これならできそう」と思うものが一つでも見つかれば幸いです。
その積み重ねが、体調を整え、元気な毎日につながることを願っています。
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