前回から始まりました、「認知症のはなし」シリーズ。
第2回目の今回は、認知症を引き起こす主な病気について、私の介護現場での体験も交えながらお話ししていきます。
「うちのおばあちゃん、認知症って言われたのに、めっちゃ覚えてるんですけど……」
「難しいことはできるのに、なんでこんな簡単なことができないの?」
介護をしていると、そんな「なんで?」に出会うことがあります。
実は、認知症を引き起こす病気にはいくつかの種類があり、原因となる病気によって現れやすい症状にも違いがあります。
今回は、そのなかでも代表的な4つの認知症について、やさしくご紹介しますね。
認知症は「ひとつの病気」ではありません
認知症は、ひとつの病気の名前ではありません。
認知症を引き起こす病気はたくさんありますが、その中でも代表的なのが次の4つです。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
それぞれ、どんな特徴があるのか見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中でもっとも多くみられるタイプです。
脳に「アミロイドβ(ベータ)」などのたんぱく質がたまり、神経細胞が少しずつ傷ついて、脳が萎縮していくことで起こると考えられています。
アルツハイマー型認知症の主な特徴
特に目立ちやすいのが、新しいことを覚えるのが難しくなることです。
たとえば、
- さっき聞いた話を忘れて、何度も同じことを聞く
- 食事をしたこと自体を忘れる
- 約束したことを忘れる
- 日付や場所が分からなくなる
などがみられます。
「ええっ!?今日はここに泊まるんですか!?」
私が施設勤務時代に出会った、アルツハイマー型認知症のある方のお話です。
その方は毎日夕方になると、
「先生、私そろそろ帰ります」
と職員に声をかけていました。
「今日はここでお泊まりですよ😊」
と伝えると、
「ええっ!!?? そうなんですか!?😳」
と、本気でびっくり。
そして次の日も、
「先生、私そろそろ帰ります」
「今日はここでお泊まりですよ😊」
「ええっ!!?? そうなんですか!?😳」
……毎日、新鮮な驚きです😂
でも、ご本人にとっては冗談でもなんでもありません。
私たちにとっては「昨日も説明したこと」でも、ご本人にとっては今日初めて聞いたことだったのかもしれません。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などによって脳の一部がダメージを受けることで起こる認知症です。
脳血管性認知症の主な特徴
ダメージを受けた脳の場所によって、現れる症状が違います。
そのため、
- 物忘れはあるけれど、判断力はしっかりしている
- 難しいことはできるのに、簡単なことができない
- できることと、できないことの差が大きい
など、能力にばらつきがみられることがあります。
このような状態は「まだら認知症」と呼ばれることもあります。
「こんなに分かっているのに?」
施設で働いていたころ、脳血管性認知症のある90代の男性がいました。
普段は会話もしっかりでき、レクリエーションのゲームもルールを理解して参加されていました。
書道をすれば、とても達筆。
ある日、毎日張り替えるカレンダーを見ながら、
「今日は何の日でしょう?」
と聞いてみると、
「天長節か?」
との答えが。
天長節とは、今でいう天皇誕生日のことです。
「すごい!ちゃんと覚えてはる😳」
と驚くほど、昔のこともよくご存じでした。
ところが夜になると、服を脱いで部屋で排尿したり、タンスを開けて、その中に排泄しようとしたりすることが毎日ありました。
「こんなにいろんなことが分かっているのに、どうして……?」
と、私も最初は不思議でした。
脳血管性認知症では、脳のどの部分がダメージを受けたかによって、保たれている力と苦手になったことに大きな差がみられることがあります。
「これができるんだから、あれもできるはず」とは限らない。
この方との関わりから、私が学んだことのひとつです。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳に「レビー小体」というたんぱく質のかたまりがたまることで起こる認知症です。
レビー小体型認知症の主な特徴
特徴的なのが、実際にはないものが見える「幻視」です。
「知らない人が部屋にいる」
「そこに子どもがいる」
「虫がたくさんいる」
など、とてもリアルに見えることがあります。
ほかにも、
- 頭がはっきりしている時と、ぼんやりしている時の差が大きい
- 手足がこわばったり、動作が遅くなったりする
- 寝ている間に大声を出したり、激しく体を動かしたりする
などの症状がみられることがあります。
誰もいない壁に向かって話していた女性
施設で夜勤をしていたときのことです。
どこからか、誰かの話し声が聞こえてきました。
「ん……? 誰か起きてる?🤔」
声のする居室をそっとのぞいてみると、利用者さんがベッドに座って、何もない壁に向かって話していました。
「もう……どうするの? お母さんは帰るわよ」
「だだをこねないで。さっきから言ってるでしょ」
「いい加減にしなさい、ヨウコ」
まるで、そこに小さな子どもがいるかのように、ずっと話しかけていたのです。
その方には、子どもの姿が見えることがよくありました。
「子どもがいなくなった」と心配して探したり、「子どもの分のご飯もお願いね」と頼まれたりすることも。
そんなとき、
「子どもなんていませんよ」
と否定するのではなく、
「わかりました。用意しておきますね😊」
と、その方の見えている世界に合わせてお話しすると、安心されることがありました。
私たちには何も見えていなくても、ご本人には本当にそこにいるように見えている。
そのことを実感した出来事でした。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の「前頭葉」や「側頭葉」が少しずつ萎縮することで起こる認知症です。
前頭側頭型認知症の主な特徴
物忘れよりも、行動や性格の変化が目立つことがあります。
たとえば、
- 同じ行動を何度も繰り返す
- 時間や順番などに強くこだわる
- 相手の気持ちを考えた行動が難しくなる
- これまでならしなかったような行動をする
- 言葉が出にくくなったり、意味が分かりにくくなったりする
などがあります。
家族からすると、「昔はこんな人じゃなかったのに……」と戸惑うことも少なくありません。
「分かっているけど、自分で止められない」
施設で働いていたころ、前頭側頭型認知症のある70代の男性がいました。
体は元気で、ご本人も、
「僕はいつ退院できるの? どこも悪くないのに」
と話していました。
しかし、自分の行動を抑えることが難しくなっていました。
「散歩に行く」と決めたら職員を待たずに出て行ったり、ほかの利用者さんにイライラすると、目の前にあるテレビのリモコンを投げてしまったり。
しかも、リモコンは必ず自分の目の前に置いておきたい。
みんなで使うテレビなんですけどね……😅
投げたリモコンがほかの利用者さんに当たれば、もちろん事故報告書です。
そんなことが一日に何度もあり、
「また事故報告書や……😭」
と、職員も対応に追われていました。
ご家族も暴言や暴力に疲れ果て、「もう一緒に暮らすことはできない」という状態でした。
ところが、あるときご本人が冷静に話してくれました。
「投げたらあかんのは分かってる。でも、気づいたら投げてる」
「自分で止められへん」
この言葉は、今でもよく覚えています。
周りからは「困った行動」に見えても、本人自身も、自分の行動をうまくコントロールできずに困っていたのかもしれない。
だからといって、家族が暴言や暴力を我慢し続けなければならないわけではありません。
本人への理解と同じくらい、支える家族を守ることも大切だと感じたケースでした。
まとめ|「認知症だからこう」と決めつけないで
今回は、認知症を引き起こす代表的な4つの病気について、介護現場で出会った方のお話も交えながらご紹介しました。
同じ「認知症」でも、物忘れが目立つ人、できることとできないことに差がある人、幻視が見える人、行動を自分で抑えることが難しい人など、その現れ方はさまざまです。
そして、同じ病気でも、みんなに同じ症状が現れるわけではありません。
大切なのは、「認知症だからこういう人」と決めつけないこと。
「どうしてこんなことをするの?」と思ったとき、病気や症状を知ることで、「そういうことだったのか」と少し見え方が変わることもあります。
認知症について知ることが、その人を理解する小さなヒントになればいいなと思います。

